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東京高等裁判所 昭和38年(う)322号 判決

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は被告人卞相沢の弁護人小田良英及び被告人裵清洙の弁護人小泉頼一提出の各控訴趣意書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。

弁護人小泉頼一の控訴趣意第二点(事実誤認の主張)について。

原判決の判示第三の事実は、これに対応する原判決挙示の証拠を総合すれば優にこれを認定することができ、被告人裵清洙が単なる従犯ではなくて共同正犯であることは明白であり、記録を精査検討しても、原判決の事実認定に過誤はない。論旨は理由がない。

弁護人小田良英の控訴趣意及び同小泉頼一の控訴趣意第三点(いずれも量刑不当の主張)について。

記録を精査し、これに現われている本件各犯行の動機、罪質、態様、窃取し又は強取した金品の価額並びに被告人らの年齢、性行、境遇、経歴、なかんずく被告人卞相沢は、いずれも窃盗罪により昭和三十五年六月大森簡易裁判所において懲役一年六月に処せられ四年間その刑の執行を猶予する旨の言渡を受け、更に同三十六年九月同裁判所において懲役一年に処せられ三年間その刑の執行を猶予し、猶予の期間中保護観察に付する旨の言渡を受けながら、右各猶予の期間中に本件犯行を敢えてしたものであること、また被告人裵清洙は前科歴はないけれども、昭和三十二年以来三回に亘り傷害、恐喝、強盗、強姦未遂の非行により家庭裁判所に送致された前歴があること、その他一切の情状を総合して考察すると、原判決の量刑はまことに相当であるというべく、殊に原判決が被告人らに対しいずれも酌量減軽をして量刑処断していることにかんがみると、各論旨摘録の被告人らに有利な事情を充分に斟酌考量しても、原判決の量刑を目して過重であると断ずることはできない。各論旨は理由がない。

弁護人小泉頼一の控訴趣意第一点(法令適用の誤りの主張)について。

所論は、原判決中被告人裵清洙に対する訴訟費用負担の裁判につき法令適用の誤りを主張するのであるが、本案の裁判に対する上訴と共に訴訟費用の裁判に対し不服の申立があつた場合において、本案の裁判に対する上訴がすべて理由のないときは、訴訟費用の裁判に対する不服の申立は不適法なものとしてこれを許すべきではなく(昭和二十九年六月二十一日東京高等裁判所判決、高等裁判所刑事判例集七巻七号一〇六三頁以下及び同三十一年十二月十三日最高裁判所第一小法廷判決、最高裁判所刑事判例集一〇巻一二号一六三三頁以下各参照)、被告人裵清洙の本件控訴が本案の点についてすべて理由のないことは前掲説示のとおりであるから、本論旨は採るを得ない。(なお記録によれば、所論の証人本宮清一は、原審第四回公判期日において検察官が被告人裵清洙の原判示第一の窃盗事実に照応する公訴事実を立証するため取調を請求した共犯者本宮清一及び賍物処分に関係した金東順の司法警察員に対する各供述調書について同被告人の弁護人小泉頼一がこれを証拠とすることに同意しなかつたため、検察官においてその喚問を請求したものであること、しかして右証人本宮清一は同第五回公判期日において尋問を受けているが、その尋問及び供述は専ら右の窃盗事実に関連するに止まり、相被告人卞相沢の犯罪事実には関係がないこと、を認めうるのであるから、原判決が右証人に支給した訴訟費用を被告人裵清洙の単独負担とし、相被告人卞相沢に連帯負担を命じなかつたのは寧ろ当然の措置であるというべく、原判決が被告人裵清洙のみに右訴訟費用の負担を命じた点に関しては論旨指摘の如き法令適用の誤りは存しないのである。)

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条により本件各控訴を棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂間孝司 裁判官 栗田正 有路不二男)

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